むにむにのとうちゃん

とうちゃんはおとうさんじゃない。
とうちゃんはほんとうは「とうこ」というなまえで、
おんなのこで、まだ5さいだから、おとうさんじゃない。

みんながとうちゃん、とうちゃんとよぶのでとうちゃんも
じぶんでじぶんのことをとうちゃん、とずっとよんできた。
もしかしたら字でかいたら「とーちゃん」なのかもしれない。

とうちゃんにはおねえさんがいる。
おねえさんはもうずっとおとなだから、いつもはたらいている。
たまににちようびとかにはとうちゃんをつれだってゆうえんちとかに
つれてってくれることがある。

とうちゃんはおねえさんがだいすきだ。きれいだし、やさしいのだ。

おねえさんはとうちゃんのことを「とーちゃ」とよぶ。
「ん」をつけてくれればとうちゃん、になるのに、ととうちゃんは
いつもおもう。とーちゃ、とーちゃ、とおねえさんはよぶ。

おねえさんに「とーちゃ」ってよばれると、とうちゃんははしっていく。
おねえさんのあしにどーん!とぶつかるまではしっていって、あしに
ぎゅっ、とからまる。

おねえさんはいいかおりがする。おかあさんともおばあちゃんとも
もちろんおとうさんともちがうかおりがした。とうちゃんはその
においもだいすきだった。

「とーちゃはぷっくぷくだねえ」とおねえさんはわらいながら
とうちゃんのほっぺたをむにむにする。うれしそうにむにむにする。
とうちゃんはかおをむにむにされるので、いつもこまるのだけれど、
おねえさんにそれをされるときにはおねえさんがうれしそうなので、
むにむにさせてあげているのだ。

そんなとき、とうちゃんはわたしはいいひとだなぁ、とおもう。

でもうちにすんでる、ざっしゅのこいぬの「にょりー」をおねえさんが
さわっているときにもにょりーのおなかをむにむにしている。
にょりーもまんざらではないかおでむにむにされているのをみてると
とうちゃんはちょっとふくざつなきもちにもなる。これはひみつ。

あるひ、おねえさんがかいしゃからないてかえってきたときがあった。
おねえさんはいつもならごはんをぱくぱくたくさんたべるのに、
そのひはじぶんのへやにすぐにはいってしまって、ずっと
しずかだった。

おとうさんもおかあさんもしんぱいしてたので、とうちゃんもすこし
どきどきしてきたし、なんとなくかなしかった。よくわかんないけど
かなしかったのだ。なくほどじゃないけど。

とうちゃんはおもう。
わたしもいつかおおきくなるんだけれど、かなしいことがあるんだろうか。
おなかがいたいときはとうちゃんもかなしくなる。ほいくえんで
ちゅうしゃのあるひ、と、おひるごはんでやさいがでてくると
しんじゃいそうなくらいかなしくなる。

いじわるされたのかもしれない。かいしゃ、ってところでだれかが
おねえさんをいじめたのかもしれない。わかんないけど。

もうねるじかんになってから、おねえさんがへやからやっとでてきた。
ろうかでとうちゃんがといれにいこうとしてたときに、おねえさんと
ばったりあった。

とうちゃんはもうねむかったので、おねえさんがないてたことを
わすれていたけれど、おねえさんのかおをみたらなんだか
ぐったりしてるので、おねえさんがないていたことをおもいだした。

「おなかすいちゃったよぉ」とおねえさんがいったので、
いつものおねえさんのようなきがしたので、とうちゃんは
「たくさん、ないた?」とおねえさんにきいた。
「うん、ないた」とおねえさんはいって、うふふってわらった。

ないてるかおとわらってるかおはにてるなあととうちゃんが
おもってたら、おねえさんがとうちゃんのかおをむにむにしてきた。
とうちゃんは、う〜ん、とおもったが、おねえさんがげんきに
なりそうなきがしたのでさせてあげた。

 

「おなかがぐ〜、だ」といって、おねえちゃんはわらってだいどころに
いった。いつものおねえちゃんだな、ととうちゃんはおもった。

とうちゃんはかおにむにむにのかんじをのこしながら、わたしは
いいひとだなぁ、とおもった。といれからでると、そんなことも
わすれていたけれど。

とうちゃんは5さいだから、しょうがないのだ。

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