茄子・アンダルシアの夏をみた

(小さな警告)
ネタばらしするつもりはないし、それをここのエッセイに
期待してる人もいないと思うんだけど、どこかしか、映画を
見る前にこのエッセイを読んじゃうと「しまった」って
思っちゃうかもしれないので、「茄子・アンダルシアの夏」を
見る前の人はこのエッセイは避けた方がいいかもしれません。



夏向きの、ガッツあふれる映画が見たくて仕方なかった。
下手な恋愛や派手なアクションで売る映画はみたくなかった。
現実に、いろいろむしゃくしゃしてて、そういうのを吹き飛ばす
作品がみたかった。
そしたら「茄子・アンダルシアの夏」って映画はなんとなくあたってるな、って
思えたので片道一時間をかけて、夏風邪こじらせたまま、映画館に
突入したんだけれど、結論先に言うけど、見に行ってよかったよ。

主人公の実生活での負けっぷりに対して、周りの人間が送っている
「日々の生活」は「うらやましい」ものではないにしても、主人公が
手にすることが難しかったもので、ましてや主人公の兄に対する
「くやしさ」って、一度ならずも、たいていの世の中の大人には
心当たりのある敗北感だとおもう。

負けてること、そのものよりも、人って、負けてる最中のその人の
リアクション、負けた後のその人の方を見てるんだよね。この映画の
観客もそうだし、主人公の「ちくしょう!」って気持ちがどこに
つながっていけるのかを、手に汗握って見守りたくなるのだ。

主人公の持つ、基本的に「負け犬」なガッツは見ていてこっちが
「チクショー!がんばれよー!」って励ましたくなるし、ああ、そうか、
こういう立ち向かい方っていいよな、って土に水がしみ込むみたいに
心に及んでくる。

作品が48分しかない。
入場料金は1000円。
中身は48分の映画なんかじゃなかったし、通常料金でも安いくらいに
密度は高いし、ガッツあふれるし、やる気まんまんの、子供にはチト
わかりにくい大人のアニメだったのです。

かっこいい作品です。
人って思ってることをほとんどしゃべれないものなんだよね。
気持ちの「量」に対して、やっぱり言葉って足りない方法なのかもしれない。
だから、人は本当に思ってることはほとんどしゃべれない。
大人が子供程に冗長でいられないのは、言葉じゃどのみち足りない感情を
たっぷり抱えこんでいるからかもしれない。

この作品の大人達は、ひとりひとり、思う感情があるのに、ほとんどそれを
喋らない。ただ、気持ちが行動になって、ちらり、ほらりと主人公の前に
出ては、ほんの少し、にじませる。主人公にも、それをみてる観客にも
それでたっぷりの気持ちが放り込まれてくる。そうか、そうだよなぁ、って
しみてくるのだ。

主人公ペペが最初っから最後まで、彼自身の本音ってものを漏らさないのも
すごくいい。兄にも、もと彼女にも、誰にも話してない。
いろいろ考えてる。ああだった、こんなことが、って考えてる。
いろいろ思っているのに、それを発露させるのは、ただがむしゃらに
疾走する、という行為だけだ。それも作品のはじめでは補佐役という
「ハナから主役じゃねえ」ってところにあって、それでも「やめる!」って
感情ではなく「やってやらぁ!!!」という妙なプロ意識で、でも
頑張れるっていうのは、そういったものを「自分のもの」としてガッシリ
うけとめる人間ゆえのものである。そこが、また、安易なドラマみたいな
正義感や友情の上に立ってなくて、潔い。

自分の幸せのために、なんの役にもたたないかもしんないかもしれない
勝負に挑んでて、それがまた、戦ってる最中に「クビ」かもしんないと
知らされて、それでも「まだ走ってる」っていう主人公を描けてる作品は
今までなかったと思う。(まんがにはそれがたくさんあるよね。日本の
まんが文化って本当に素敵!)

世間では「自己犠牲」を美しく言う人もいるんだけれど、この作品のペペは
周りの事情からでなく、自分の決心の上で言ってる台詞に
「うちにかぎって言えば、今日はオレの日じゃねえ。今日は兄貴の日だ」
ってあるように、実生活でも、レースの上でも、てんで自分がまるで期待されてない
状況下にあるのに、

否定しようのないもののなかで

ただ「疾走」することに、

もしかしたら「ただかっこ悪いだけかもしんない」ことの中に

この映画の観客は見つけられる『ある気持ち』を見やるのだ。

そいつを、この映画に見つけちゃうから、
わたしたちは主人公ペペを応援しちゃう側にはいってしまうのだ。


主人公のがむしゃらな走りが輝いて見える映画だ。
自転車と人がキラン!と輝く映画だ。
それでいて、無駄な売り物を加味しなかった、美しい映画だ。
ゆえに!!
こいつぁ、いい映画だよ

大好きです。
風邪でオタオタした生活をしてたり、日々の悩みの「姿勢の悪さ」がなんとなく
見えてきて、正気に戻った感じがしました。

きっと、日本にあちこちで「近くでやってないよぉ」って人、たんまり
いるとおもうんですよ、私もそうでしたし。
これはね、片道二時間くらいまでならやってるところがある人は見た方がいいよ。
それも、劇場でないとなかなかもったいない映画ですよ。美しいもの。
光が、風景が、人が、自転車が。

48分だからみない、とかアニメだから観ない、とか、近くでやってないから観ない
ってのはかなりもったいない。いい映画なんだもん。観ないと損なんだもん。

ただし「ジブリ」映画だと期待していく人にはちょっと違うかも。
基本的に「マッドハウス」の映画です。

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