茄子・スーツケースの渡り鳥

とにかくクサクサして腐ってた一日だった。がんばってもがんばってもがんばっても
あとからあとからどいつもこいつも好きなことばっかりぬかしてるように
思えてきて自分の中から毒がでてるのを感じてたので、このサンプルが手許にあって
本当によかった。コテンパンな体調と心象のまま、飯も食わずにDVDをセットした。

1時間もないうちにみるみる自分が元気になって、2度目を見始めていた。
御飯を抜いて見続ける、っていうのは心底惚れ込んでる時だ。面白い作品。

作品、というのは誰かへのエールなんだろうか。
アニメファン以外の人が普通に映像として、作品としてみられる作品位置、というのが
このごろは極端に少なくなってきているし、自分の実生活に役立つガッツを映画に
期待するってのがそもそもノンキすぎるのか。

負けてるし、弱そうだし、ふだんの生活ってのがそもそも負け込んでるこの作品の
登場人物達は、日本を舞台にスペインと同じようにキリキリと生きている。
レースでは日本人が応援をしているので応援応援の中で疾走してる、といえば
映画っぽくてかっこいいようにも聞こえる。勝負そのものの本質は「優勝」以外に
あまりスッキリした達成感がないから、レーサーの生活なんてのは悶々としてる
苦しい時間の連続の中にいる方がうんと長い、そういう物語だ。

人生では主人公の数より、傍役の数がうんと多い訳で、「茄子」のシリーズでは
いつも主人公以外の「後ろから押す人」が描かれる。静かに押す人や、露骨に
押す人、熱烈に押す人、主人公も見せるが、押す人、をちゃんと見てる。
見てる、人を、ちゃんと見てる。
これっていい視線よね。
人生は主人公だけのものじゃなく、「みんな」がいて一斉に「人生」ってところに立つ。

主人公になり損ねた、と思ってる主人公が今回の主人公で、やっぱり自信なんかなくって
どこかいつも逃げ腰で、それでもレースを続けてるっていう負け腰な、ガッツない人なんだけど、
目標としてた人の死を乗り越えたりしないで、真正面から「弱ってる」ままで物語に
来てくれてるのはいいな。なんというか、全然強くない人であり、それって自然なことだ。
迷うし、焦るし、答えなんかだせないし、かといって「頑張る」なんて言える自信も
どこにもなくって、ええ、でもそれでも生きてて、レースをやってる、っていうのは
ほら、自分に心当たりあることだ。

アニメやドラマみたいに自信満々な主人公が傍若無人にふるまうのは、ただの暴力と
大差ないとしたら、普通の感性で、勝利に向かうっていうのは、かなりかっこいいこと
なんじゃないだろうか。

恋とかほとんどなくても物語は十分な溢れる魅力に富み、私はこのシリーズが大好きだ。
くり返し見られるのは雑で安易な売り方を作品がしておらず、他の作品で味わえない
懐の深さのようなものがある。今朝からもう五度見てしまってる。やばい、惚れ込んでる。

もうすぐ発売よね。薦めます。見て下さい。

 

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